トランシルヴァニアの夕べ〜珠玖加奈子CD
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ブダペストである女性に会った。名前はマルギット。住まいのお向かいに住む73歳の女性。初めて出会った日、バジリコの鉢植えを垣根ごしに差し出してくれた。彼女の広い庭は、秘密の花園。さまざまな花が咲き、小鳥が遊びに来る、ハリネズミの親子が住む庭。アンズ、桃、プラム、たくさんの木の実がなり、たくさんの人々がマルギットに会いにくる。 引っ越して来たばかりの、右も左も分からない私にたくさん、たくさん、ハンガリー語で話しかけてくれた。言葉はわからないのに、なぜか言っていることは、すべてわかる。言葉がわからないのに、いつも、一緒に大笑いした。その庭の垣根に開いた穴をくぐって、マルギットの住まいへ通う。 ハンガリー料理を教えてくれた。ハンガリー刺繍を教えてくれた。庭の花を摘んで、玄関の前に置いてくれた。ノブには、手作りのお菓子がかけてあった。市場へ連れて行ってくれた。町のコンサートへ連れて行ってくれた。生まれ故郷の町へ連れて行ってくれた。菩提樹の花を一緒に摘んだ。マーチャーシュ教会のモーツアルトのレクイエムに連れて行ってくれた。ハイドンのミサに連れて行ってくれた。 毎日、一緒に過ごした。私の日本からの友人がブダペストに来ると、まるで自分のお客のごとく、お料理、お菓子を作ってくれた。 そして、2年半後私に、命は永遠でないことを教えた。 |
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